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子供達に囲まれて、オルガンを弾く幸枝に永遠の天使を感じた勇次郎。一方、幸枝も不思議だった。多くの男性からずいぶん結婚を申し込まれたというが、なぜかあの5年生の時にぼた餅を届けに来た勇次郎少年が、いつか自分を迎えに来てくれるような気がしていたという。
当時、男と女がおつきあいをするという時代ではなかったが、幸枝も立派な青年に成長した勇次郎のうわさはよく耳にしていた。身内を褒めるわけではないが、幸枝は水戸小町といわれるほどの愛嬌で、かなり人目をひいていたし、勇次郎はといえば、今で言えばまさしく高倉健。マントを翻して高下駄でさっそうと歩くその姿に町中の娘たちがあこがれていたという。(こんな美男美女になんで僕のような普通の顔が生まれてしまったのか残念だけれど(笑))
そして、ついに勇次郎は幸枝に唐突だったが、結婚を申し出た。すでに幸枝は25歳になっていた。その頃で25歳まで一人の男を、それもなんのあてもない相手を無言で待ち続けるということは、大変なことだったに違いない。今にして思えば、それも運命だったのかもしれない。僕の血の中に剣道の道に汗する勇次郎の命とオルガンを弾いて子供達と幸せそうに歌い合う幸枝の命を今でも時々感じる時がある。親子とは、やはり血である。
ところで、東京からさらに列車に乗り継いでふるさと水戸にたどりついた菅原一家は、まず、廃材を拾い集めて自分の住む家を建造するところからはじまった。やがて、近所にうわさがたった。「菅原さんの家では、おさるを飼っている」といううわさだ。それがなんと、やせこけた僕のことだったのだ。ちょこんと、庭先で赤いはんてんを着て、背中を丸めている僕がてっきりおさるに見えたという。僕はおさるなんかじゃない。
続く......。
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