人生エッセイ

「時は過ぎて行く?」

 人間、生きていると嬉しい事、苦しい事、ほんとうに色々ありますね。僕の年齢になると周囲でも家族の誰かが亡くなったり、病に伏したり、自分自身がガンに侵されてしまったり… 現実の問題として、襲いかかってきています。それでも人間は生きている限り、明日を信じて努力を続けます。ところで最近つくづく思うのは、ステージでもお話したことがありますが、「人生の時は、流れさっていくものではなく、その人の命の中に積み重なっていくものである」という事実です。僕自身、以前は時はながれさっていくもの、二度と帰ってこないもの、と思っていました。シャンソンの名曲にも「時は過ぎていく」という作品があります。眠っていても歌っていても戦っていても、誰の上にも時は確実に流れ去り、二度と帰らないもの、という内容の歌で、この歌を歌うと客席からすすり泣く声が聞こえてきます。きっとほとんどの人が、二度と帰らない青春を思い、そのむなしさに胸があつくなるのでしょう。
ところがこの「人生の時は、流れさっていくものではなく、その人の命の中に積み重なっていくものである」ということに気がついてから、僕の人生観が変わりました。自分がこれまでに体験したことは何一つ無意味なことはなく、血となり、肉となって自分自身の命の中に確実に積み重なっているのです。亡き父母との思い出も、懐かしい友との日々も、あらゆる喜び、悲しみ、苦しみも、すべて自分の命の中に今も生き続けているのです。自分がこの世に生き続けている限り…

それに気がついてから、僕の歌の世界も変わってきたような気がします。生きている喜び、たとえどんな苦しい日々に対しても心から感謝できる素直な気持ち。そう、歌の世界がより深く広く豊かに、年を重ねる度に積み重なっていくのを感じるのです。生き続けることの素晴らしさ、歌い続ける事の感動を日々からだ一杯に感じています。



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