第十一回「ベッド事件」

 最近、B-DASHの音楽が全国の人達に幅広く理解されてきたのと同時にB-DASHの全国ライブも増えてきました。先週も大阪・奈良・神戸でのライブがあり、ゆうた、タナマン、アラセ達はライトバンに乗り込んで出かけました。まだ、デビューしたばかりなのでもちろん自分達で運転や荷物はこびまでしなければいけないし、それよりスケジュール的にゆっくり休む等という事ができないはずですから、どこでも寝られる丈夫な体でなければやっていられません。

 僕自身、世界の舞台で歌い続けて30年になりますが、一つだけ自慢できる事があるとすれば、それは30年間一度も病欠がないという事です。どんなつらい時も、どんなに苦しい時も、舞台に穴をあけた事がありません。プロのミュージシャンとして一番大事な事は自分の都合で人に迷惑をかけてはいけないという事だと思います。そこが、アマチュアとの大きな差です。才能だけでなく、いろいろな人を見ているとプロ向きの人とアマチュア向きの人とがいるような気がします。その意味では、B-DASHの三人は若いけれど本当にプロ向きだとつくづく思います。

 ところで、ゆうたがたくましくどこでもどんな時でも眠れるよう育ったのにはやはり理由があります。

 保育園に入って間もなくゆうたがお友達の家によく遊びに行くようになりましたが、ある日の事。泣きそうな声でうったえてきました。「なんでうちは、お布団で寝るの?みんなベッドで寝てるよ(泣)なんだか僕の家だけ貧乏くさくて悲しいよ(泣)ベッド買って〜〜〜(泣)」

 普段、めったにわがままを言わない子供のゆうたが目にいっぱい涙をためてうったえています。確かに我が家は子供3人せんべい布団で、川の字で眠ります。それがゆうたには貧乏臭く、時代遅れに思えたのでしょう。でも、実はそれには僕の大切な願いが込められていたのです。

 戦後の貧しい時代。ほとんどの日本人は一間に家族で生活しなければいけませんでした。それは確かに不自由な生活です。でも、振り返ってみると兄弟が一つの布団で足を蹴飛ばしたり顔に手をのっけたりしながら、眠れるという事は大人になってしまうと二度とない事なのです。そうした、自然な肌のぬくもりこそが、他人を受け入れる気持ちを養うものなのです。もし、生まれた時からベビーサークルで育ち、その後もベッドでひとりで寝て育ったら、他人の肌のぬくもりを感じる事ができません。そうして、大人になると、夫婦でさえも相手をうざったく思えたりしてしまうのです。些細な事に見えてこれは、その人の一生に大きな影響を与えるかもしれないのです。

 ゆうたには、そうたという弟がいます。弟のそうたは今、週間SPA!で「みんなのトニオちゃん」というCGマンガの作家として、活躍していますが、ゆうたとそうたが、今でも仲がいいのもせんべい布団のおかげだと思います。

 毎日、泣いてうったえかけるゆうたの頑固さは大した物でした。
今でも自分のポリシーを絶対曲げない強さがゆうたにはありますが、この時のゆうたの必死さはお見事でした。でも、こちらも負けられません。

「他がベッドでもうちは絶対ふとん!!」

 僕は全力でゆうたの前に立ちはだかりました。この時の僕は、ゆうたから見たらきっと鬼に見えた事でしょう。優しさだけが父親ではない。本当の厳しさこそが愛なんだと僕は自分に言い聞かせてがんばりました。

 不思議なものです。1週間、2週間と張り合ううちにいつの間にかゆうたは、ベッドの事を口に出さなくなりました。そして、元気に友達と遊んでいます。後で聞いた話ですが、ゆうたは「やっぱり、布団は楽しい。みんなで喋れるし、触れ合えるしボク、布団で育って本当に良かった」と友達に言っていたそうです。これからも、親と子のぶつかり合いは、いろいろあると思いますが、対立を恐れず、本当に大切な事は伝えていきたいと思っています。

 余談ですが、せんべい布団にたくさんで育つとどんなにうるさくてもどんなに眩しくても、どこでも寝られるたくましさが身につきます。
ゆうたが、プロのミュージシャンとしてワールドツアーでもするようになった時に、あのベッド事件がきっと大いに役に立つ事でしょう。

 保育園に通うゆうたに思いもかけないビッグチャンスが訪れました。
なんとアメリカ横断!!夢のような話です。ゆうたのアメリカ横断?

 

 


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