第十四回「折り鶴」

 

 ゆうたとそうたのコンビはニューヨークのどこへ行っても大人気。まるで動く東洋のおもちゃ。二人ともうれしくてうれしくて路上や広場でKARATEパフォーマンス。そう。今で言うストリートパフォーマンスのはしりです。今でも二人ともストリートパフォーマンスを自然にやりはじめますが、きっと、ニューヨークのストリートはよほど楽しかったのでしょう。

自宅で空手の練習をするゆうた(手前)とそうた(向こうがわ)


 まず、一家はニューヨークのマンハッタンの中心にあるセントラルパークに出かけ、市民に地球歌の日を呼び掛ける事になりました。セントラルパークは青空のもと、たくさんの人達がジョギングをしたり、ローラースケートをしたりちょうど一時の原宿の歩行者天国のようです。セントラルパークの一角に荷物置き「結べ地球を歌声で」ー地球歌の日の巨大な垂れ幕をみんなで協力してぶら下げました。市民の人達は不思議そうにこちらを見ています。特に小さな体で一生懸命がんばっているゆうたとそうたの姿に「あらあら。東洋のあんなちっちゃな子が....」と人だかりが集まってきました。日本のボランティアの主婦の人達が出発前に届けてくれた折り鶴をゆうたとそうたに渡すとはじめのうちは、恥ずかしそうにモジモジしていましたが、勇気を出して集まったニューヨーク子達に紅葉のような小さな手で配りはじめました。長男と次男というのはおもしろいものです。決して長男が先にやるという事はあります。次男のそうたに「そうたちゃん。渡してきて」と頼んでいるのです。そして、そうたが渡すとみんなに「いい子ね。がんばってね。」と言われている姿を見てから自分も配りはじめるのです。長男は慎重。次男は怖いもの知らず。本当にいいコンビです。一つ一つの小さな折り鶴に平和への願いが込められています。

 僕達一家はまず、坂本九の「上を向いて歩こう」を歌いはじめました。この歌は、ビルボードでヒットチャート1位となり、世界中の人々に知られています。ゆうたもそうたも力いっぱい歌います。「う〜え〜を〜む〜い〜て〜 あ〜るこ〜 な〜み〜だ〜が〜こ〜ぼ〜れ〜な〜いよ〜に〜」二人とも真剣です。ニューヨークの人達も家族で歌っている姿によほど心打たれたようです。

 その頃、ニューヨークでは大きな問題が起こっていました。家族崩壊です。経済が発展しすぎた結果、個人がバラバラとなり、崩壊した家族が激増していったのです。子供を顧みないで仕事に熱を出す母親、深刻な夫婦喧嘩。最近、日本でも問題化してきていますが、この当時のアメリカこそ、まさに今の日本でした。ニューヨークで、私達は忘れられない出合いをしました。それはティーンエイジママズスクール訪問です。

 つまり、10代で母親になってしまった少女達が通う学校。それも公立の学校なのです。家庭が崩壊した結果。帰る所を失った少女達が繁華街を深夜までうろつくようになり、その結果、妊娠・出産、子育てすらできない少女達が町に溢れ出したのです。子育てを教えてくれる人さえその少女達にはいません。ついに行政は大金をかけてティーンエイジママズスクールを開設したのです。13歳。14歳という少女達が赤ちゃんを抱えて必死に生きています。こんな学校が正式に設立されてしまうという深刻さにもし、日本にこんな時代が来たら大変だと思いました。ティーンエイジママズスクールでのコンサートは感動の嵐でした。お父さんがいて、お母さんがいて、子供がいて、力を合わせて歌っている光景に幼い少女達はわが子を抱き締めながらじっと聞き入っています。幸せになりたい。その気持ちは誰でも同じ。赤ちゃんに罪はありません。この少女達がしっかりと生きていくことによって罪のない赤ちゃんも幸せになります。がんばれ!少女達!豊かな大国の裏側にある一面をのぞいた気がしました。私達一家にまた次の訪問先が届きました。なんと、刑務所です。刑務所?マンハッタンの北側にその刑務所はあります。

 

 


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