第十六回「おじいちゃんがんばって」

 アメリカ横断コンサートの旅では、数多くの出会いがありました。アトランタでは、あの巨大なアトランタ球場で思いもかけず試合前に歌う事になったりニューオリンズでは、大博覧会の会場の舞台に立ったりとテレビ番組ならではのドラマティックな旅でした。また、いろんなアメリカのアーティストの家にも招かれました。ギターの名手ラリー・カールトンは、夫婦でもてなしてくれました。中でもマイケルジャクソンや、ダイアナロスを育てたスモーキーロビンソンの家に招かれた時にはwe are the worldを制作した時の話を聞いたり、アメリカの音楽の歴史に華を咲かせました。スモーキーは、日本の歌にすごく興味を持ち、僕が「さくらさくら」をアカペラで歌うと目を輝かし「その歌には壮大なロマンがある。時を越えた壮大なロマンが。」とアンコールを求めてきました。2回目に歌うとなんと目に涙を浮かべて聞いています。僕達日本人にとってはあたりまえの「さくらさくら」がアメリカのアーティストにとってそれほどまでに感動的だとは......

 僕は、これから日本古来の音楽が世界の人にどれほどの感動を与える事だろうと考えました。そういえば、プッチーニの世界的オペラ「蝶々婦人」も日本の「さくらさくら」の美しさに衝撃を受けて作られたという事です。それから、リチャードカーペンターとの共演も楽しい思いでになりました。当時、妹のヘレンをなくし悲しみの中にいたリチャードはとても喜び自分のピアノで一緒に「トップオブザワールド」「イエスタディワンスモア」等をデュエットしました。リチャードはおとなしい本当に気のよい青年という感じで日本での再共演を約束して別れました。ただ一つ、残念だったのはその頃の僕は、ロックのジャンルをほとんど知らなかったので、当時アメリカで大人気だったロックバンド「ポリス」と対談した時は今思えばずいぶん失礼な事を言ったのではないかと思います。帰国して音楽関係者に「ポリス」と一緒だったと言うと飛び上がって驚かれたほどです。アメリカのミュージシャンはどんなに有名でも、実生活は本当に普段着です。その点、僕も気が楽でした。大邸宅はセルジオメンデスの家でした。セルジオも家族で歓迎してくれましたが、地球歌の日に大賛成してくれ協力してくれました。今思うと、本当に思いでがいっぱいのアメリカ横断でしたが、ゆうたに聞いてみるとほとんどおぼえていないというから本当にもったいない話です。自然動物園でワニの赤ちゃんをつかんだとか、プレイリードッグを追い掛けたとか、そんな事ばかりしか覚えていないのです。やっぱり子供は子供ですね。でも、そこがかわいいのかもしれませんね。世界的なアーティストとは知らずにひざにちょこんと腰かけたり、サンドイッチをもらったりいつか、ゆうたもビッグなアーティストになったらそんなナチュラルな人になってもらいたいと思います。

 あ、そういえば今でもゆうたが鮮明に心に残っているアメリカ横断の思いでがある。という事です。それは、「おじいちゃんがんばって」日系民の老人を訪ねたカリフォルニアでのコンサートの事です。

 

 


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