第二十一回「平和島」

 B-dashのゆうたの作品のなかに「平和島」や、「本門寺」「大森駅」など、地元の地名がよく出てきます。最近では、その場所を訪ねるツアーがあったりして驚いています(笑)僕としては、とてもうれしいことです。なぜなら、僕は子供達は家のある地元で育つことが一番大切だと思っていたからです。最近はよい大学に進学させるために幼い頃から地元で離れて電車通学したりする子供達の姿も目にします。もちろん、そのこと自体を否定はしません。でも、学力を得る変わりに子供として一番大切な時に何かを失っていくような気がしてならないのです。世界を回ってきた僕にとってはこの地球はたくさんの地域社会の積み重ねでできあがっていると思うのです。だから、できるだけ子供は自分の住む地域社会の中で育っていくことがなによりだと思うのです。自分の家庭を好きになったり、自分が住んでいる町を好きになったり、自分が通っている学校が大好きになることが、とても大切なのです。そうでなければ、自分だけを愛するエゴイスティックな「えらい人」になってしまう危険性があると思うのです。地域にはいろいろな子供達が住んでいます。お金持ちの子もいれば貧しい子もいるでしょう。お父さんが死んでしまった子もいれば、家庭が不仲で苦しんでいる子供もいるでしょう。どんな子供もみんな大切な存在です。そうしたいろいろな境遇の子供達がいじめあうのではなく、助け合って生きていってこそ、本当に人間らしい社会が作られるのだと信じています。だから、まわりからはずいぶん進学中心の小学校、中学校を勧められたのだけれど、地元の小、中学校に入りました。

 シングルヒット曲「平和島」は、ゆうたとそうたが幼い頃から遊びにいっていた場所の歌です。幼い頃、妻の明子は日曜日になると朝早く起きてゆうたやそうた、そして近所の子供達を連れて平和島に行きました。平和島までは自転車で10分くらいです。その自転車での平和島行きも楽しみのひとつです。自転車に乗りながらみんなで助け合って平和島にたどりつくのです。けっこう、おなかがすいたり軽い運動になりました。もちろん、僕もコンサートがない時は子供達といっしょに平和島に自転車に乗ってでかけました。きっと、知らない人が見たらあんまりたくさん子供達をひきつれているので、僕のことを幼稚園の園長さんだと勘違いしたことでしょう。おもしろかったのは、平和島に到着すると、よく夕方五時に迎えに来るからそれまでみんなで元気に遊んでいてね。と言って大人は全員帰ってしまうのです。一般の人から見たら、無責任な親と思われたかもしれません(笑)でも、朝9時から夕方5時までの8時間の間、どうやって平和島で楽しく遊ぶか。それは、ゆうたやそうた達、子供自身が工夫しなければならないのです。もちろん、お金などありません。ゲームもテレビもありません。きっと、危ない遊びもたくさんしたかもしれません(笑)最近、ゆうた達が「僕達がお金がなくてもテレビがなくてもゲームがなくてもいつでも楽しく工夫をして遊べるようになったのは、パパとママが平和島に連れて行ってくれたおかげだよ」と笑いながら言います。確かに今思えば、あの日々がゆうたやそうたの創作活動の原点になっているような気がします。

 


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