第二十四回「いつものお国とギター」

 雨の日も風の日も「いつものお国」こと、国元君は毎朝8時5分になると菅原家の玄関の前でインターホンを鳴らしてくれました。あれほど学校をいやがっていたゆうたの心から、いつの間にか霧が晴れていくように何気ない毎日が戻ってきました。大森8中までは歩いて5分。どんな中学生活を送っていたのでしょうか。不思議なものです。ひとり大親友ができると次から次へと友達ができてきました。「ゆうた君、ゆうた君」放課後になると、いろんな子供達が遊びにやってきます。

 そうしているうちにいつの間にか、ゆうたはあのサンタさんからもらったギターで遊びはじめたのです。ある日、子供部屋をのぞくと国元君とゆうたがギターで歌を歌っているではありませんか。ゆうたがギターで歌を。中学生の終わりには小学生のようなまだ声変わりをしていない幼い歌声です。

晴れた日には外に出よう♪
息をこらして自転車こいで水を汲んでも意味がない♪
原チャリ♪原チャリ♪原チャリ♪原チャリ♪原チャリ♪原チャリ♪原チャリ♪

 なんだか、不思議な歌だけれど心が弾むような気がしてきます。作詞は国元君。作曲はゆうたです。いつの間にこんな事ができるようになったのでしょう。多分、ミュージシャンとしてのスタートの日だったかもしれません。それにしても軽快なメロディとその澄んだ歌声。今でも耳に強く残っています。ミュージシャンゆうた誕生の予感です。もちろん、その時はまさかゆうたがプロのミュージシャンになれるとは思いもよりませんでした。もし、機会があったらいつかこの原題「原チャリ」を聴いてみてください。ゆうたの原点です。こうして、歌の好きな少年へと変身していったゆうたは寂しい時、悲しい時、孤独な時、自分の部屋で好きな歌を作るようになってきました。その頃、一番ゆうたの心をとらえたのはブルーハーツだったのではないのでしょうか。落ちこぼれや弱い人間に寄せる強烈なメッセージ。きっと、幼いゆうたの心にブルーハーツのメロディとリズムが刻まれたと思います。言い換えれば父親の僕に連れられて世界をまわり、世界中の人々と出逢い、世界中の音楽を聴き、そしてそこにブルーハーツが重なったのだと思います。B-DASHの誰にでもわかるリズム、メロディ。それは、ブルーハーツの世界に通じるものがあると思います。苦難を乗り越えて学校を退学する事もなく、危機一髪でゆうたは高校受験を迎える事ができました。いよいよ、高校受験です。

 


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