第二十八回「ゆうた何賞?」

 結果の発表までは、アジアのビッグスターの歌の共演が続いた。なにしろ、中国の歴史はじまって以来の最大のイベント。中国12億の人がテレビに釘付けです。後で、わかったのですが、視聴率は78%。日本の紅白歌合戦どころの騒ぎではありません。驚いた事にアジアのビッグスター達のトリをとって歌う最大スターがなんと僕だったのです。これまでの国連でのコンサートや、世界規模でのコンサートが中国では高く評価され、その時の最大ビッグスターとして招待されていたのです。他の歌手は全員2曲ですが、特別扱いで最後に階段から、堂々と歌いながら登場。実に3曲。一曲は僕の初期のヒット曲「四季の歌」。これは中国でも大ヒットしていました。二曲目は中国の歌で「大海我故郷」という曲。

 とにかく、会場はききいってくれています。今、この時に全中国に生放送されていると思うと、熱がこもりました。この日のリハーサルの時、ゆうたに感謝しなければいけない出来事がありました。酒井法子をはじめ、アジアのトップスターが次々にステージリハーサルをしていましたが、その様子を見て、正直、僕が少しビビっていたのです。その姿にゆうたがかけよってこう言うのです。「お父さん、アジアのどんなスターよりも、お父さんの歌は本物だよ。それは聞いた人がすぐにわかるから。ビビらないでいつもの通りお父さんらしく歌ったらいいよ」この一言には泣けました。自分の事ばかり考えてビビっていた自分。あれほど世界の舞台に立ってきたのに、そう、自分らしく歌えばそれでよかったのです。

 本番のラストは自分で作詞した「ロストタイム」という曲でしたが、感動のフィナーレになりました。さ、すべては終了。審査結果の発表です。とにかく、中国最大のタレントスカウトイベントですから、大変です。たくさんのテレビ局代表の出場者にまじってゆうたもステージ上で発表を待ちます。

 まず、銅賞からの発表。美空ひばりの再来を思わせるほどの名唱をしたあの広東省の代表の女の子です。やっぱり。女の子のうれしそうな顔。

 そして、続いて銀賞........「すがはらゆうた」。僕は一瞬、耳を疑った。ゆうたが銀賞?ゆうたも胸を張って一歩前に出ます。なんと、日本人のゆうたが、銀賞をさらってしまったのだ。もちろん、金賞は中国の少女。あとで聞いた話だが、実に最高得点はゆうただったらしい。中国のスターを育てるイベントだったので、日本人のゆうたはあえて銀賞になったという。

 ゆうたは本物だ!僕は体が震えるのを感じた。さっそく、中国のプロデューサー達がゆうたをスカウトしたいと申し出てきた。中国で活躍すれば、すぐに大スターになるという。ところが、ゆうたの答えはあっさりしていた。「僕は中国で音楽をやる気はありません。日本でやります。」どんなに強力に誘われても自分の気持ちははっきり貫き通すゆうたの態度は立派だった。ロックをやるならやはり、日本、アメリカ等でやりたいのです。まさに、その通りかもしれない。スターになる事と音楽をやる事は別なのだ。プロデューサー達はうなだれて帰っていった。テレビ出演の翌日、北京の町に出ると大騒ぎが待っていた。

 

 


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