第三十回「夢」

 思えば、いろんな事のあったゆうたの中学、高校時代だったけれど、過ぎてしまえばあっという間の出来事だったような気がする。高校3年生の夏ともなると、みんな人生の進路を真剣に悩む時期である。ゆうたもどんな人生になるのか。自分なりに考えていた。

 高校三年の時、ゆうたがふと話した言葉の中で「パパ、僕は自分が通っている学校が一番いい学校だと思うよ。人がどう思おうと自分がこの学校が一番好きで一番いいと思うんだから、それでいいんだ」どうやら、ゆうたは本気のようだ。世間では偏差値だの、有名校だのいろいろとうるさいけれど、本音でゆうたはそうした事から精神的に解放されている。だから、進路をきめる時も一度だって偏差値を考えたり、見たりした事はない。自分が何をやりたいか、そのためにどうするかまさにそれだけだった。ゆうたが専門学校を選ぶのに時間はかからなかった。

 その頃、ゆうたはコンピューターミュージックに物凄く興味を持っていた。NO NAMEのバンドをやりながらも、自分が部屋に戻るとコンピューターを前にコンピューターミュージックの創作活動をしていた。B-DASHのアルバムに必ずボーナストラックとして水の遊び場等のコンピューターミュージックが入っているのはそのおかげだ。ゆうたは迷わず蒲田にある、日本工学院専門学校のコンピューターミュージック科を選んだ。まったく、偏差値や知名度等には目もくれずに.......

 だから、それ以外の学校は一つも受けていないのだ。もし受けていたら、他の学校にうかったのかどうかさえ、わからないからおもしろい。自分がいいと思う学校が世界一。自分が好きな音楽が世界一。それでもゆうたのおもしろいところは、それを他人に強制するところがないところだ。日本工学院のコンピューターミュージック科が、世界一だと思うのはゆうたにとってであり、他の人にとってはまた別だという考え方もちゃんとわかっている。それと、住んでいる家から日本工学院までが、高校と同じで自転車で15分しかかからないというのも、時間の節約。雨の日も風の日も嵐の日も自転車に乗ってただひたすらに通学したゆうただった。

 ゆうたが日本工学院のコンピューターミュージック科に入った日。ひとりのおもしろい友達を見つけた。

 

 


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