第三十一回「新しい仲間」

 蒲田にある日本工学院専門学校のコンピューターミュージック科に入学したゆうた。これも不思議な事だが、この学校でコンピューターミュージック科が新設されたのはこの年が最初だった。だから、ゆうたは1期生という事になる。偏差値等にはまったくとらわれない受験だったので、今でもゆうたが学業的に優秀なのか、そうでないのか、父親の僕でさえ、正直なところわからない。でも、人生それがいいような気がする。一生、自分は成績優秀だと思い込んだり、成績最悪だと思い込んだりして過ごす人がいるけれど、成績なんて決して人生を決定づけるものではない。いつも充実した毎日を送る事。それが最高。結果的にゆうたが成績にまったく左右されない人生を選んだのは幸せだったような気がする。B-DASHは、3人のロックバンドだが、この学校でゆうたが学んだのはいわゆる打ち込み音楽。言うなれば坂本龍一や小室哲哉の世界だ。今でもゆうたはロックのライブに疲れるとひとり静かに夜中までコンピューターミュージックの打ち込みに取り組んでいるが、B-DASHのアルバムに打ち込み音楽が加わっているという事はとてもいい事だと思う。B-DASHライブで暴れて、夜中にコンピューターミュージックで心を落ち着ける。そのくり返しでバランスを取っているようだ。

 ところで、この学校に入学してすぐに出逢った友達というのが「こうたろう」という鎌倉から通学している青年で、入学のその日に気があったという。お互いにどこか独特の個性があったのだろう。それから数日後、驚いた事実が判明した。この「こうたろう」のおじさんが、田中芳郎と言って僕の早稲田大学時代の一級下で同じコールフリューゲルという男性合唱団に属していた仲間だったのだ。不思議なもので、ゆうたの父である、僕とこうたろうの叔父である田中芳郎が肩を並べて学生時代歌っていたのである。「こうたろう」は卒業後さらにDJ等の勉強のために次の学校へと進学し、今も夢を追い求めてがんばっている。ゆうたはこの日本専門学校でもかけがえのないたくさんのすばらしい友達を得た。みんな、プロのミュージシャンを目指して毎日がんばっている仲間達だ。

 

 


………禁無断転載………