第三十七回「ゆうたアフリカの村へ」

 難民キャンプ行きの前に僕達はその周辺の村を訪ねて歌う事になった。周辺の村と言ってもどこにあるのか。辺りは大草原と砂漠です。車に乗ってしばらく走るとこんもりとした林の影に家らしき姿が見えてきました。どの家もどの家も土でできています。いわゆる日干しレンガです。人陰はありません。車から降りておそるおそる一軒の家を訪ねてみました。もちろん、現地の言葉はわかりません。「こんにちわー!」度胸がいります。もし、殺されてもそれっきり。もちろん、悪い事を考えたらきりがありません。勇気を出して御挨拶です。すると中から不思議そうな顔をしたおばさんが恐る恐る顔を出しました。こちらが笑顔でもう一度「こんにちわー!」と微笑みかけるとうれしそうに外に出てきました。なんとか気持ちは通じるものです。ジェスチャーで歌を歌いに来たんだよ。というそぶりを見せるとすぐに気がついてくれました。ここでも「四季の歌」を一曲歌うとおばさんは大喜び「さっそく村の広場でみんなに歌ってあげてくれ」と僕達を広場に連れていきました。ゆうたもちょこちょことついてきます。身も知らぬアフリカのおばさんを一体どんな目で見ていたのでしょう。おばさんが、大きな声で怒鳴り歩くといつのまにか、あっちの家やこっちの家から次々と人が現れていつのまにか人だらけになりました。僕は持っていった携帯用ラジカセをカラオケにして、もう一度「四季の歌」を歌いはじめました。すると、みんなすぐに踊り出してしまったのです。どうやら、アフリカでは歌うというより踊るという感じです。ゆうたも必死に僕を応援して「四季の歌」を歌ってくれているようです。カンボジアの時よりもさらに力強い歌声で。ありがとうゆうた。

 また、B-DASHの音楽にちょっと触れますが、ゆうたがこの時、本場のアフリカの現地の音楽や、人々に触れたという事はグローバルな音楽作りにとってかけがえのない経験になったような気がします。とにかく、アフリカの人達の音感は大したものです。広場が盛り上がって来ると今度は青い洋服を着たおばさんが、頭にスカーフを巻いて広場の中央に飛び出してきて激しく身を揺すって踊りだしました。僕も、負けてはいられません。ソーラン節や阿波踊りで対決です。不思議です。アフリカの音楽と日本の民謡が一つに合体です。これもまた音楽の楽しさ。どんな世界中のライブより本物かもね。みんなみんな大喜びです。ところが、コンサートが終了すると酋長が真剣な顔で僕達に演説をはじめました。酋長は英語が話せるのです。「日本から来たすがはらファミリー、我々は本当に感動しました。我々の国は独立したばかりでごらんのように貧しく、食べ物もお金もありません。けれども、今日、こうしてあなた達と歌いあい、我々村びと達は人間としてとても大切なものをいただきました。それは、人々が助け合い、生きていくという姿です。貧しいこの村のこれからは厳しい毎日ですが、今日の思いでを大切に生きていきます。ささやかなお礼を差し上げましょう。」そう言うと、村の奥から一羽のニワトリを持ってきました。「さぁ、坊や、これは我々の心からのお礼です。」ゆうたは、何がなんだかわからずジッとニワトリを見つめています。それから、しっかりと両手を広げてその茶色いニワトリを受け取りました。顔はうれしさというより怖さでひきつっています。なにしろニワトリを生まれてはじめて抱き締めたのですから。勇気を出して必死にニワトリを抱えるゆうたを見て小さな親善大使のような気がしました。

 あとで聞いた話ですが、あの貧しい村の人々が貴重なニワトリを差し出すという事はとても大変な事だそうです。それだけ感謝していたそうです。

 宿舎に帰ってニワトリを部屋の中に放すと思いっきり飛び回り暴れまわっています。ゆうたは大慌て。そしてひとしきり暴れるとおとなしくなり、勇太の大の仲良しになりました。ニワトリちゃん。よろしく。さぁ、明日はいよいよ、難民キャンプです。

 


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