第三十八回「難民キャンプでサッカー」

 さぁ、今日は宿舎を出ていよいよ、難民キャンプだ。もう一度、言うと僕達が訪ねた国はジンバブエ。そして、難民の人達はその東側の国。動乱のモザンビークからの避難民。果たしてどんな状態なのか。まったくわからない。難民を助ける会の石井さんや小林さん達と荷造りをして出かけた。車には日本から運んで来た楽器とジンバブエのハラーレで購入した地元の楽器とが、どっしりと積まれている。

難民キャンプに届ける楽器の山


 果たしてみんな喜んでくれるんだろうか。何時間走っただろうか。広大な大地に難民キャンプが見えてきた。キャンプに足を踏み入れると、そこは異様な光景だった。テントや藁の掘建て小屋に無数の人々がうごめいている。中央の広場にはものすごい人の行列。食料の配給だ。ほんのひとにぎりの食料を手にするために、長時間ただじっと並び続けている。僕と明子の後ろからゆうたも神妙な顔でついて歩いた。すると、ものすごい数の人達が僕達の後について歩きはじめた。まるで、ハーメルンの笛吹きのよう。ふと振り返ると難民の子供達がゲラゲラゲラゲラ指を差してうれしそうに笑い転げている。通訳の人に僕はたずねた。「なんであの人達はあんなにうれしそうに笑っているんですか?」すると、こんな答えが帰ってきた。「それはほら、あの僕の頭ですよ」「え!?頭?ゆうたの?」「そうです。アフリカの子供達はみんな巻き毛です。それがゆうた君はイガグリ頭。なにしろ、あんな頭を見たのは生まれてはじめて。不思議でしかたないんです。だから、みんな必死によく見てみようと近付いてくるんです。」

 この国では、ゆうたのイガグリ頭がこんなにも騒がれるのだ。ゆうたは、イガグリ頭だけで、大スター。難民キャンプの休憩所に案内され、ひと休みしていると窓の外から「ユータ!ユータ!」の大合唱がはじまった。さっき、僕達が勇太を振り返って「ユータ!ユータ!」と呼んでいたのを難民の子供達が聞いて名前をおぼえてしまったのだ。ユータコールは、大きくなり、ゆうたはちょっと恥ずかしそうにでも、うれしそうに顔をすくめた。「ゆうたちゃん、窓から顔を出してごらん。」と僕が言うと、ゆうたはちょこんと窓から顔を出した。大歓声が沸き起こった。難民を助ける会の人達と相談し、まず難民の子供達とサッカー大会をする事になった。と言っても、サッカーボールがないので、ボロキレを丸めてボールを作った。僕達が外に出ると難民の人達がドッと取り囲んだ。サッカーゲームはおもしろかった。日本人もアフリカ人も入り乱れてのゲーム。ところが、ゆうたにボールを渡すとめちゃくちゃに難民の子供にボールを蹴ってしまうのだ。とうとう、僕はゆうたに怒鳴ってしまった。「ゆうたちゃん!だめだよ!敵にボールを渡しちゃ!パパやママや石井さんに渡さなきゃ!」すると、ゆうたは「パパ!違うよ!僕は、難民の子供達の味方なんだよ!パパが敵だよ!」と堂々と叫んだのです。僕は、ショックでした。わが子が自分の敵だなんて。そう、ゆうたにとっては子供と大人の試合だったのです。日本人とアフリカ人の試合とばかり思い込んでいた自分の狭さが恥ずかしくなりました。人種を越えてと言いながらいつのまにか人種で区別していたのです。純粋なゆうたの心の中には国境はすでになかったのです。難民の子供達と必死に力を合わせてがんばっているゆうた。次の時代のはじまりをしみじみと感じました。さぁ!サッカーの後はいよいよコンサートです。

 

 


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