第四十回「僕、ここにいる」

 難民キャンプでの熱いコンサートを終え、僕達は宿舎に再び向かった。難民キャンプの出口まで来た時、ゆうたが突然しゃがみこんだ。「ゆうたちゃん、どうしたの?はい、立って」「きっと、あれだけのコンサートをして、ゆうた君も疲れたんでしょう。」と難民を助ける会の小林さんが言いました。「ゆうたちゃん、大丈夫?」そう言ってゆうたの顔をのぞきこむと、ゆうたの目に涙が浮かんでいます。「ぼ....僕....」「どうしたの?」なんだか、ゆうたの様子がおかしいようです。元気がありません。地面を黙って見つめています。「僕....ここにいる....」「え?」ゆうたは、帰りたくないと言うのです。貧しく苦しい難民キャンプ。日本の子供から見たら、あまりにも過酷な環境です。でも、それよりも幼いゆうたにとっては、アフリカの難民キャンプの子供達の友情や、触れあいの方が大切だったのです。

 僕は、胸が熱くなって、また思わず涙が出そうになってしまいました。「ゆうたちゃん、それはダメ。アフリカの子はここの子供達なんだ。そして、ゆうたちゃんは日本の子供なんだ。だから、お別れして、日本に帰らなくてはならないんだよ。」ゆうたは、小さな心を整理しようとしているようです。でも、うまく整理できないのです。もちろん、ここにいつまでもいられるわけはないという事は、子供心にわかっているのでしょう。

 ゆうたにとって、きっととてもとても大きなサヨナラだったのだと思います。確かに今、思えばあの難民キャンプの子供達とは、二度と会う事がなかったのですから。しばらく、しゃがんだ後、ゆうたも心の整理がついたらしく、僕達について歩き始めました。いつまでも、ゆうたの心にこのアフリカの人々との出会いが残るようにと願いました。

 帰り道、大草原の向こうの水面がなにやら動くのが見えました。「あれはなんですか?」「カバです。」「え!?カバ!?」「そうです。このあたりには、カバの家族が住んでいるんですよ。」ゆうたに声をかけて、車を降り、池の岸まで行ってみました。楽しそうに水遊びするカバの親子。大自然の中で、幸せそうです。こういう光景が日常的に見られるのはやはり、アフリカ。

 その夜、ゆうたと二人で宿舎の裏庭にあるドラム缶のお風呂に入りました。お風呂といっても草原の上にポツンとあるだけです。下には薪が燃えています。まさに大自然のお風呂。あたりが暗くなると、突然、星が輝き出しました。なんと、美しい。満天の星。ゆうたもうれしそうです。暗くなるにつれ、星は輝きを増していきます。宇宙の中で地球が浮かんでいる。そんな気が本当にしてきました。明日は、アフリカの古代遺跡をたずねる予定です。アフリカに別れを告げる日が近付いてきました。

アフリカの古代遺跡をたずねるすがはら親子。

 

 

 


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