第四十六回「BeatlesとB-DASH」

 子供の頃、ゆうたが言った話で今でもとても心に残っているのは、「パパ、これからの人間は植物のような生き方をした方がいいよね。」という言葉だ。これはゆうたが小学校の時、はじめて生態系について学び食物連鎖を知った時の話だ。草食動物は草を食べて生きる。肉食動物はその草食動物を食べて生きる。それに対して植物は太陽のエネルギーで炭酸同化作用を行い、炭酸ガスを酸素に変え、地球の浄化に役立っている。そして、地中から水分と養分を吸い取って成長し、木の実を提供してくれる。ゆうたが言うには、相手を殺したり、食べたりするのではなく、自分の命を使って価値あるものを作り出しているのだ。

 こうして、書いてみると当たり前かもしれないが、小学生のゆうたがその植物のエコロジーに未来の人間の生き方を考えたという事に僕は今でも驚かされる。人間はどうしても人と競争したり、人から何かを奪おうとしたりしがちだ。自分の命を使って相手の役に立つという考えをする人は少ない。もし、この事に気がつけば、人間はすばらしい生き物だし、生きているという事を肯定する事もできる。人間が醜い生き物か。価値ある生き物か。それは自分自身の考え方によるのである。

 もちろん、ゆうたがこの言葉のように聖人君子であるわけはないし、いろいろ間違った行動もあるだろう。けれども、小学生の頃、こう感じた気持ちは今もゆうたの曲作りの原点になっていると思う。6月に出るアルバムの「LOVE」というタイトルも単なる男女の愛ではなく、もっと深く広いLOVEを意味してるのは確かだ。

 昨夜、やっとアルバムのボーカル録りを終えたゆうたの部屋を訪ねると貸しビデオで「Beatlesヒストリー」を寝転びながら、見ていた。きっと、大仕事が一段落し、ホッとした一時なのだろう。僕も何げなくゴロリと横になっていっしょにそのビデオを見た。イギリスのリバプールから生まれた無名の若者バンドがいつの間にか世界的なバンドへと展開していくストーリーだった。ポール・マッカートニー、ジョン・レノン、リンゴ・スター、ジョージ・ハリスン。僕は最近、ジョージ・ハリスンの東京ドームコンサートに行ったので若き日のジョージの姿にちょっとうれしくなった。大人の商業主義とエゴのはざまで苦しみドラッグに逃げていったメンバー。本当のやすらぎを求めてインドに渡り、裏切られ傷心で帰国したメンバー。Beatlesは何かを求めながら、ついに行き詰まり解散していった。その間に歴史的な名曲を数々生み出しながら。

 あれから何十年たったろうか、時代は今21世紀。6月にB-DASHのニューアルバムがリリースされる予定だが、収録済みのデモCD全24曲を聞いているとなんだか、Beatlesが必死に求め続けていた答えが見えてくるような気がする。

 

 

 


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