第四十九回「時空を越えて」

 この夏、発売予定のB-DASHのニューアルバムのレコーディングが完成し、連日、ジャケット撮影やリハーサルに明け暮れているゆうたですが、気持ちはいつものようにのんびりゆったりに見えます。今回のアルバムは最初「LOVE」というタイトルがつけられていましたが、作業を進めていくうちにゆうたの気持ちの中で少しづつ熟成し、結果として「○(まる)」というタイトルになったようです。僕もこの方がいいような気がします。「LOVE」はもちろん、大切な言葉ですが、「○(まる)」は東洋的な響きでもっともっと大きな宇宙の存在まで感じさせます。こういう言葉を直感で気がつくゆうたの感性はやはり、おもしろいと思います。

 この頃、ゆうたの生き方を見ているとこの子の人生はひょっとしたら時空を越えているのではないかと思う時があります。一般には今、この時だけに生きているのですが、どうもゆうたは今だけじゃなく、過去、現在、未来にわたって同時に生きているような気がするのです。それが目先の事にこだわらない秘密なのかもしれません。今回のアルバムレコーディングのコンセプトの中で僕が一番、感動したのはその録音方法です。最近のアーティストであれば最良のスタジオで最高の機材を使って録音したがるはずです。また、そのために海外まで出かけていく人もいます。ゆうたの場合はまるで、逆でした。あの山中湖スタジオでの録音を予定の半分の日数で切り上げ、自分のスタジオに戻って自分の機材で自分のミキシングでたったひとりで全曲のボーカル録りをしたのです。僕も驚いてしまいました。これほど、レコーディング技術がすすんでいるこの時代にゆうたの持っている安価な機材で、録音するという事は危険じゃないかと思わず言ってしまいました。その言葉に対して、ゆうたは悠然として「それは違う。どんなに機材が優れていても、音楽そのものが生きていなければ意味がない。確かに僕の機材は高価なものではないけれど、僕の部屋で僕の気持ちのままに本当に自分が納得できる歌を歌う事が大切だと思う」と言うのです。

 毎晩、ゆうたは自分が納得するまで歌い続けてたったひとりで録音を仕上げました。この「○(まる)」というニューアルバムはゆうたの、そしてB-DASHの分身になりました。さらに、ゆうたの話では「何10年も前のアルバムを聞いても本当にいいものは今でも決して古くないし、感動できる。その頃の録音技術は今に比べて比較にならないほど劣っているけれど、そんな事は二次的な事なんだ。僕のこの機材だってちゃんと生きているんだ。」お金をかける必要のないゆうたの生き方は、古くて新しいのかもしれない。この「○(まる)」というニューアルバムがどれだけ多くの人々の心に届くだろうか。

 

 

 


………禁無断転載………