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この頃、町からすっかり姿を消してしまったけれども僕の小学生の頃は、町にちんどん屋がたくさんいた。思い出せばなつかしいなぁ。父がこのちんどん屋がすきで、「玉子屋」の特売日には必ずといっていいほど、ちんどん屋を頼んでいた。
午前中にちんどん屋のおじさんやおばさんがしろ塗りの顔でお店に集まり、そこからちらしを持って、チンチンドンドンと町中を歩くのだ。僕もおもしろくなってそのちんどん屋のあとをついて歩いた。そのうち、ちんどん屋に頼まれて僕はちっちゃな手でチラシを配りながらうしろから付いて歩くことになった。またここでもちんどん屋に気に入られてしまった。ちんどん屋のおかげか。玉子屋は大繁盛。押すな押すなの超満員。
父はとても豪傑で人の面倒見がよかった。ちんどん屋も全員父を慕っていた。夜、仕事が終わると父はちんどん屋に振る舞い酒と食事をごちそうした。みんな、一仕事終わってうれしそうだった。また、思いもかけず僕は歌うことになった。「やっちゃん、一曲歌って」誰かの声に僕ははにかみながら「ミネソタの卵売り」をあの鈴を転がすような声で歌った。ちんどん屋は大喜び。
そして、帰りがけに僕にこう言った「僕歌が上手だね。おじさんビックリしちゃったよ。レコード会社の人を連れて今度来るから待っててね。」僕は顔が赤くなってのぼせてしまった。その頃、美空ひばりの影響で松島ともこや、古賀さとこ等、童謡歌手が大活躍だったのだ。翌日から僕は学校から帰るとお店の前に立ってじっと待っていた。まさかレコード会社の人が来るというと恥ずかしいので、小さな声で「誰か来なかった?」と毎日聞いた。結局、何日たっても誰も来なかった。もちろん、今思えば、ちんどん屋がレコード会社を知ってるはずがない。それでも小さい僕の小さい胸はそれで踊ったのだ。今でも冗談でもちょっとした話が子供には大きな出来事になることがあるとつくづく思うことがある。
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