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Yasunori Sugahara

-「やすのり伝記」-


第三十七回
美空ひばり

 僕が美空ひばりさんと出会っていると言ったら驚くかもしれません。そして、今になってみれば、とても幸運だったと思います。

 早稲田のクラブの先輩の岡山さんからの紹介で、フジテレビミュージックフェアのフロアディレクターをはじめた僕でしたが、多くのアーティストと人間的なふれあいができたこと。感謝しています。

 あ、そうそう。その当時、美術担当が若き日の妹尾河童さんでした。河童さんは、とてもいい人でいろいろ人生の話や美術談義をしてくれました。先年、少年Hで作家としても大活躍ですね。学生だった僕には、贅沢すぎる環境でしたが、そうして一流の人々に囲まれて仕事ができたことは、人生の高い目標をつかむためにも最高の環境だったと思っています。

 ところで、当時「シャンソン」アダモや、アズナブールをはじめ、世界のトップスター達と仕事をすることができましたが、アダモもアズナブールも、人間としてもとてもやさしくすばらしい人達でした。やはり、本物の歌を歌う人の人間性の高さをつくづく感じました。

 そんな中で、やっぱり心に残ったのは、美空ひばりさんです。お正月の特別企画としてひばりさん、チエミさん、いずみさんの3人共演番組を撮ることになりました。

 なんと、ひばりさんがマイフェアレディの「踊り明かそう」を歌うことになったのです。もちろん、英語です。ひばりさんの楽屋をたずねるとひばりさんは、自分の手で書いた歌詞カードを片手に真剣に歌詞を繰り返し歌い続けています。それが、なんと英語ではなく、カタカナです。もちろん、カタカナをそのまま読んで歌っても、発音は無理です。そのカタカナの歌詞カードを見ながら、見事な英語の発音で歌いきるのです。楽譜が読めないことで有名なひばりさんでしたが、その何百倍、何千倍も見えないところで、努力を続けていたのです。

 余談ですが、チエミさんは収録の時に、少し間違えました。すると、チエミさんが僕のところに来て、「ちょっと間違えちゃった。わかっちゃうかしら?でも、スタッフに悪いから撮り直しはいいわ。」と言って帰ってしまいました。スタッフに気をつかうチエミさんの心づかいが痛いほどよくわかりました。

 一方、ひばりさんは、自分の持ち歌の「リンゴ追分」の収録に何度、演奏しても「リズムが違う」と言って納得しません。誰が聞いても完璧なのに、ひばりさんの耳には満足しないのです。ついに、収録は明け方まで続いてしまいました。そして、やっとひばりさんの納得いく「リンゴ追分」の演奏ができあがった時に、歌ったのです。このひばりさんのこだわりの大きさにこそ、歴史に残る歌い手の本音を見る思いがしました。

 今、ひばりさんのどんなビデオがテレビから流れてきても、すべて完璧に歌いこなしているのは、決して偶然ではないのです。天才であり、努力の人、ひばりさん。僕は今でもあの時の真剣なひばりさんの姿を思い出します。

続く......

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